ところで、あたしは、思うのだけど、子供頃から「よくわからない人になりたい」と思っていた。マンガ家になって、うしゃしゃとか笑うのもよく分からない人だし、毎日、会社にいってコピーだけとっているのもわからない人だ。
そうだ。OLになるっていうのもいい考えかも知れない。
「先生、あたし、よくわからないOLになる」
あたしが、インディアンにそういうと、インディアンは、書きかけのおまんこマンガの原稿から顔をあげて、ゲラゲラ笑い出した。やった、なんか知らないけど、久しぶりに受けた。
「この子、OLになるんだって」
インディアンがそういうと、みんなアシスタントのみんなが、いっせいに笑った。スゲー受けたので、あたしは少し気分がよくなった。
そうだ。OLになるっていうのもいい考えかも知れない。
「先生、あたし、よくわからないOLになる」
あたしが、インディアンにそういうと、インディアンは、書きかけのおまんこマンガの原稿から顔をあげて、ゲラゲラ笑い出した。やった、なんか知らないけど、久しぶりに受けた。
「この子、OLになるんだって」
インディアンがそういうと、みんなアシスタントのみんなが、いっせいに笑った。スゲー受けたので、あたしは少し気分がよくなった。
「いーなー、OLになったら、スーツ着て、メガネかけるんでしょ」
いつもあたしの顔を見ると、セックスをねだるヨシ蔵が、うるんだ瞳をした。
なにをいってもセックスに結び付ける人はどこにでもいるのだ。
「どこに就職するの?」
インディアンは、まだ、へらへら笑っている。
「コピーがたくさんあるところ」
あたしは、自分のビジョンを端的に言葉にした。みんなが、いっせいに爆笑した。あたしは、才能あるのかも知れない。
さらに気分のよくなったあたしは、事務所を飛び出すと、コピーがたくさんある会社を探しはじめた。
やっぱり、丸の内に違いないと目星をつけたあたしは、丸の内線にとびのった。
ところで、地下鉄は、淫靡な空間なのだなと思う。こんな不健康でうすぐらい空間に、いろんな人が、だらだら汗かきながら、のっているのは、淫靡だと思う。地下鉄は、なんだか、混んでいた。あたしの後ろにたったカッパみたいな髪型のおじさんが、うんこ臭い息をあたしの脳天に吐きかけながら、お尻をさわってきた。
あたしは瞬間的に、こいつは、敵の宇宙人だと直感した。口がうんこ臭いのが、なによりの証拠だ。下手にさからうと、危険なので、宇宙人の弱点をせめることにした。
うんこ臭い星人は、君が代に弱いのだ。あたしは、甲高い声で、君が代を歌った。うんこ臭い星人は、びくっとして、あたしから、遠ざかっていった。
効果てきめん。ありがとうニッポン。
あたしは、気分がよくなったので、お礼の意味も含めて、隣にいた人に大外がりをかけた。いっぽん!
その時、あたしは、丸の内線に「丸の内」という駅がないことに気がついた。
マズイ、マズイぞ。
あわてて、次の駅で降りた。東京駅だった。
ケムール人の鳴き真似のうまそうな駅員がいたのでつかまえた。
「丸の内のOLになるには、どこにゆけばいいですか?」
あたしは、ケムール人は、きょとんとした顔をした。で、その後、なんだか、変な顔をすると
「とりあえず、事務室にきなさい」
とかいって、あたしの腕をつかんできた。
あたしは、はっとした。
狂のあたしの服装は、ピンキーなマイクロミニに、真っ白のウルトラブラウス。決まりは、ミラクルキュートなおさげときている。つかまったら、犯されると思った。
そういえば、友達もナターシャも地下鉄でつかまって、いたずらされたっていっていた。
「あんた、ナターシャを暴行したでしょ」
あたしは、するどい切れ味で推理をしてみせた。
「ナターシャ????」
しらばっくれているケムール人の一瞬のスキをついて、腕をつかんだ相手の手首を小手返しで決めて、延髄切りをくらわせた。
我ながら最高のコンビネーションだ。ケムール人は、声もたてずに、床に崩れ落ちた。
パチパチパチと、いっせいに周りから拍手が起きた。あたしの超絶美技をみんなが見ていたのだ。
「ダーーーーーーッッッッッ」
あたしは、右腕を高くつきあげると、勝利の雄たけびをあげた。
「次はオレの番だ」
後ろで声がした。
中ボスのギガヘッダがあらわれた。自分の頭をはずすと「チェストー」と叫びながら、投げつけてきた。
誤解だわ。あたしは、格闘をしにきたわけじゃないのに・・・と思ったけど、もはやおそかったみたいで、周りのみんなは、あたしの美技をワクワク期待している。
あたしは、ミニスカートからロリロリの白いパンティが効果的に、見えそうな角度を計算しながら、高くジャンプした。地下鉄の天井のあたりで、くるりと回転して、天井を蹴る。
「くらえ!スターダスト・ハリケーン」
一分間で1万回パンチを繰り出すと、その瞬間、まわりが真空になり、相手の身体をその風圧で切り刻むという幻のパンチだ。
観衆がどよめく。
実力者だけが味わえる最高の瞬間。
ああ、でも、早くOLになって、コピーとりをしなくてはいけない。
あたしは、次の挑戦者があらわれるよりも早く、どぶネズミの格好をした会社員を発見した。
どぶネズミのところまで、光速ダッシュすると、ネズミは、驚いてキーキーわめきながら、逃げ出そうとした。
「しっかりせんかい」
あたしは、少しバンカラになって大正時代の敗れた学生帽をかぶりたくなった。がっちり、ネズミの襟首をつかむと、のぶとい声で丸の内にゆく方法を聞こうとした。でも、やっぱり口からでたのは、いつものあたしの「うるるんロリータ声」だった。
「オーーーーーーッス!」
あたしは、バンカラな声を出す訓練をしなきゃいけないと思って、大声で、叫んでみた。ネズミのからだがビクビクっとした。快感なのかしら。
ネズミがいうには、丸の内は、地下鉄のホームの最果ての出口からしかいけないという。
それさえわかれば、ネズミに用はない。あたしはネズミをストリートファイト目当ての愚民どもに投げつけて、そのスキに、最果てを目指した。
地下鉄の最果てには、巨人が待っていた。しまった。罠だ。
「げへへへへ、待っていたぜ」
巨人は、地下鉄職員のコスプレでせまってくる。
ああ、でも、あたしはいかなければ、いけないんだわ。あたしは、巨人あ強そうだったので、とりあえずうるうる目で、巨人をみあげて、許してもらおうとした。
「うへへへへ、そんな顔をしたってダメだぜ。おまえは、一生地下鉄からでられなくなるんだ。ずっと、自販機の中で”ありがとうございます”っていうんだ。」
やっぱり、しゃべる自販機には、人が入っていたんだ。あたしは、目からウロコが落ちた。
巨人の足元に、ひざまずいてズボンのジッパーをおろした。
「へへへへ、少しはものわかりいいみたいだな」
巨人はにたにたした。
おしゃぶりして、許してもらおうと、一瞬思ったけど、巨人のチンチンが、白くて皮かむりだったので、気が変わった。そのまま、チンチン出したまま、ジッパーをあげてやるー。
「うおおおお、なんじゃあ、こりゃー」
巨人は、身体をよじらせて、ひっくり返った。やった、逆転ホームランだ。
「イテテテテテ」
巨人はチンチンを必死に、ジッパーからはずそうとして、ころげまわっている。チャーーーーンス。あたしは、巨人の身体を踏みつけて、最果ての階段に向かった。
最果ての階段は、なんだか、かわりばえしない普通の階段。
ああ、なんかトイレ臭いぜ。
あたしは、丸の内に来た喜びを噛み締めるように、一歩一歩、階段を上っていった。
階段の中ほどで、ダンボールにくるまっていた預言者のジジイが、あたしの方をじっと見てつぶやいた。
「デンジャラス ビー・ケアフル」
英語を聞いたとたんに、あたしの中の外人エンジンが、猛烈なイキオイで、チャクラをまわしはじめた。ぐるんぐるんと、みぞおちのあたりで、チャクラが回っているのがわかる。ちなみに、あたしのチャクラは、サイクロンというのだ。回れ!サイクロン。
身体中に、ものすごいアドレナリンが分泌されて、どっと汗とよだれがでてきてしまった。しかたがないので、あたしは、よだれをふきながら、階段を上った。せっかくの丸の内デビューなのに、カッコわるいなあ。
丸の内には、デンジャラスなムードがビンビンあたりを震わせていた。あたしは、近くにいた冥王星人らしいOLをつかまえた。
「ナポレオンは、どこに逃げた」
あああああああああ!しまった。こんなこというつもりじゃないのに!
マジカル・パワーがあたしの唇を支配しようとしている。
「なんですか、あなた」
ひょっとこみたいな口をした冥王星人が、あたしをつきとばした。つきとばし方に愛が感じられなかったので、あたしは、ちょっとむっとした。
「キサマ、シャーマンだな。あたしに呪いをかけたろう!」
あああああ!また、変なことを口走ってしまった。でも、本当にコイツが、怪人シャーマンかも知れない。
「よしてください」
冥王星人あらため”ひょっとこOL”が、わめいた。 いけない! いけない! 人がパニくるのを見ると、あたしも共鳴してしまうのだ。うひー、危険。
「きゃー!タスケテー!」
あたしは、大声で叫んでいた。
脳髄に、「大変」という言葉が、あふれでてわけのわからない言葉が次々と飛び出してしまうのだ。
「ひ、ひとごろしー!」
ああああ!とまらないよう。
「大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大
変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!
大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大
変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!
大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!」
あたしは、ひょっとこを放り出すと一目散に走り出した。
100メートルほど、走ると少し落ち着いてきた。
額に汗がにじむ。だって女の子なんだもん。
ちょうど自動販売機があったので、一息つくために、なんか呑むことにした。やった!あたしの好きな「ドクター・ペッパー」がある。久しぶりだなー。
ガチャん!
でてきたドクター・ペッパーをグビリと呑んだあたしは、その水っぽさにびっくりした。
「なんじゃあ!こりゃあ」
濃厚でマニアックな味わいは失われ、水っぽいへんな飲み物にかわっている。
「太陽のバカヤロー!」
あたしの両目からどっと涙が、ほとぼしりでた。
こんなに悲しい思いをしたのは、久しぶりだわ。
手にもったドクター・ペッパーを通りすがりの宇宙人に、投げつけた。あたし以外のヤツも不幸にならなければ、不公平じゃないか、ええ?ご同輩。
「なにするんだ」
はっと、声のする方を見ると、エセ・ドクター・ペッパーの匂いをぷんぷんさせたスーツ姿の宇宙人があたしを怖い目で見ている。
−犯されるかもしれない−
女の直感が、ビリビリと子宮を刺激した。
ドクターペッパーの匂いを漂わせた宇宙人は、憎悪と肉欲のみなぎる視線をあたしに投げつけてきた。これは、挑戦だ。
あたしは「へぁっ!」裂帛の気合とともに、両手を目の前にかざして、視線を反射した。バギョーンという音とともに、視線がはじかれる。
「うぎゃ−−」
という声が後ろで聞こえた。はじかれた視線にあたったOLの悲鳴に違いない。
「正義には犠牲がつきものだわ」
あたしは、ひとしずくの涙を流した。
この悲しみが、戦いへとあたしをかりたてるのだ。
あたしは、軽やかに、ジャンプすると宇宙人の脳天めがけて、飛び蹴りをくらわせた。スーツ姿の宇宙人は、もんどりうって、路上に倒れ込んだ。
倒れたところに、トラックがきて、そのまま3つくらいに分身してしまった。
でも、あたしのキックが効いていたのか、分身した後、全然動かなくなった。
周囲にどよーんとした空気が、漂ってきた。いつもあたしは、こういう空気を感じる。それは、ギャグをはずした時だ、なんかギャグをはずしたんだろうか?それとも、やはり丸の内では、ちょっとギャグが違うんだろうか?
あたしのかわいいブレーンに、ギャグ問題を考える過剰な負荷が増大している。そうよ。人前でセックスするより、ギャグをはずす方が恥ずかしい乙女心をわかって欲しい。
「海のバカヤロー!」
あたしは、とりあえずのギャグをかますと、小走りに、近くの丸の内っぽい大きなビルに飛び込んだ。
忘れてはいけない。あたしの目的は、丸の内のOLになることなのだ。
制服の似合うOLになれたら、Hな課長にお尻をさわられても我慢しよう。人生は忍耐と挑戦の連続なんだ。
さあ、挑戦の時がきた。受付で、おすまししているOLにOLになる方法を聞かなくてはならないのだ。生きたカエルを丸呑みするような苦しい修行がまっていてもあたしは決して、くじけはしない。
「はい、ご用件を承ります」
人工的な声と笑顔があたしを迎える。
あたしの子宮が、ぎゅうぅぅぅっと縮み上がった。こいつは、敵だ。あたしをライバルだと思っている。
あたしの中の女の魂が、戦闘開始のゴングをならした。
作り笑顔の受付マシーンは、にこにこ芸のないほほえみを投げてくる。あたしは、その笑顔の裏側に、小姑にも似た危険な挑戦を感じ取った。
猫足立ちで、そろりと、受付マシーンに近づく。
ちょっとだけ、髪をそめて柔らかい感じに仕上げました、といいたげなロングヘアに、がっしりとツメをたててやる。
「キャー!」
甲高いけど、ちゃんと鼻にかかった甘える声が、脳天から発射される。
あたしの目玉は、歴戦の経験で、しばやく敵の悲鳴を判別する。
−距離2000!赤外線追尾型。しかも、しかも、敵の位置を味方パイロットに知らせる新機能まで搭載しているらしい−
悲鳴はあたしの頬をかすめて、会社の1階にこだました。
「あぶないじゃないか!」
あたしは、つかんだ髪を乱暴にひっぱって、痛い目をあわせてやった。
「ひどい、なにするんですかー」
それでも間延びした甘い声を出すのは、周りに男の社員が集まってきた空に違いない。受付マシ−ンの頭の中には、男性社員センサーによる自動音声補正装置が内臓されているのだ。
あたしの頭にするどい電波が、入ってきた。
−危険!危険!危険!−
思わず髪を手放して振り向くと、スーツをまとった男性社員が、ぞくぞくとあたしめがけて集結しているところだった。
−デンジャラス−
あたしは、思わずつぶやいた。
男性社員に内臓された受付マシーンセンサーが反応して、ちんちんがビンビンにたっている。中には、メガネ女センサーまで搭載したために、異常なほどの盛り上がりをみせるやつまでいる。
−ちんちんミサイルを一斉射撃されたら、やられてしまう−
あたしの脳裏に、ミサイルに、ぼこぼこにされた自分の姿が浮かんだ。あたしは、恐怖に負けそうな自分のこ心にカツをいれた。
−負けるな!これまでの血のにじむような特訓を忘れたのか!−
見知らぬ師匠みたいな人が、突然、あたしのハートに電波を送り込んできた。
必殺技をくれるみたいだ。やった、これで、今日もホームランだ。
先頭を切ってあたしに向かってくる男性社員は、白髪まじりのじじい野郎だ。
ちょっとだけ、偉そうな気がする。
「丸の内のOLになりたいんですっ」
あたしは、大きな声で、あふれる熱情を、じじいにぶつけた。
じじいは、目を見開いて、立ち止まった。
−チャーンス!−
ひらりとあたしの身体が宙にまった。ひゅるんとしなやかで長い脚線美を見せて、無尽蔵の破壊力がじじいの顔面に炸裂した。ぐにゃっとする感触が足首に伝わってくる。人を壊す時のこの感触。これが快感なのだ。
しまった!すきだらけの相手を見て思わず攻撃してしまった。
本当は、偉そうだからOLにしてもらうように頼もうと思っていたのに、ヤバイことをした。
「山城さん!」
男性社員が、わらわらとじじいに寄ってきた。ああ、こんなことをしてしまったら、悪いうわさが広まって、社内恋愛とかできなくなってしまう。
「違うんです」
あたしも脳天から甘い声を出して、男性社員のミサイルをコントロールしようとしてみた。
でも、あたしの脳天からでたのは、びちゃびちゃの声で、集まってきた男性社員は、ニューハーフを見るような目であたしを見やがった。じわじわと戦闘体制を整えてせまってくるちんちんミサイルの群れ!
「お願い!わかってちょうだい」
あたしは、思わずアニメのヒロインになりきった。
身体の奥からあたらしい力がわいてくる。
「泣かないでー ラララー おじいさんは死んだわけじゃないのよ
戦いはおろこなことだわー わー わー」
あたしの唇から男達をなだめるメロディーがこぼれでた。
「耳が腐るぜ!」
突然、ロンゲの男性社員があたしを思い切りどついてきた。ひどい、ひどい、ひどい。あたしの歌をけなんて、ひどいやつだ。
あたしは、どつかれて、ころげた床の上から、恨めし気な視線で、そいつをにらんでやった。
「とっとと出て行けよ。え?黄色い救急車よんで欲しいのかよ?」
そいつは、へらへらあたしを見下ろした。濃紺のスーツをきめて、思い上がっているこの若者に、あたしは正義の鉄槌をくだしてやりたくなった。
「きさまの正義は、間違っている」
あたしは、叫びながら、立ち上がった。
「なにいってんだ?」
ロンゲ野郎は、あたしを露骨に見下して唇を歪めた。まるで、つまみ枝豆みたいな見事な歪み方にあたしは、ちょっとくらっとした。歪んだ顔って、いやらしい感じするの。
「早くでていけよ」
ロンゲが怒鳴ると、うしろにわらわらいるスーツ軍団が「そうだ、そうだ」と合唱した。みんなして、あたしをのけ者にする。いつものことだが、いやーな感じがした。
こういう時、人はいじめを感じるに違いないのだ。教育問題まで、思いの至ったあたしは、教育に関する考察をメモしておかなければと思ったが、戦闘の最中なのでやめた。
あたしのスーパー頭脳が、高速で回転する。まわるまわるまわる。OLになるには、OLに紛れ込めばよいのだ。
あたしは、とっさに、周りを見回した。髪の毛を直している受付マシーンの背中の方角にエレベータらしきものが見える。あれだ。あれにのって、OLアイランドに、突進だ。
「おい、そっちは出口じゃねーよ」
ロンゲマンが、じわりをあたしにちかよった。ああ、口臭が匂うくらいに、近い。あたしは、ロンゲマンの意表をついて、エレベータに乗り込む作戦を考えた。名づけて「フォーメーションX」。
「なにしてんだ?」
ロンゲマンが、さらに近づく。
−いまだ!−
「おにいさん!」
あたしは、感極まった声をあげるとロンゲマンに抱き着いた。
「やっと会えたね。おかあさんも会いたがっているよ」
あたしが、涙目でそういうと、ロンゲマンは、あわててあたしから離れた。あたしのことを、電波女と思ったに違いない。
ロンゲマンの一瞬のスキをついて、あたしは、受付マシーンの脳天に、足をかけると、思い切りエレベータめがけてジャンプした。
エレベータを降りた・・・そこは、甘くけだるい夢のOLアイランド。
ガウンガウンうなるエレベータを降りたあたしの目には、つっけんどんな葉色の壁までも、OLアイランドの美しい緑に見える。
あたしの前をOLアイランドの住民・・・紺の制服に豊満な身体をつつんだOL達が何人も通り過ぎて行く。
「ねえ、その制服、くださいっっっ」
あたしは思わず叫んでいた。
ぎょっとした目つきで、OL族が振り向いた。
「なによ、この子」
ああ、言葉使い悪いぜ。男の前とじゃ全然違うじゃないか・・・あたしは、自分の頭のスーパー頭脳に「OLは表裏がある」と入力した。
「OLになりたいんですっっっ」
あたしは、OL族への憧れや思いのたけを、ぶちまけた。あたしの脊髄に内蔵された発情回路に電流が走る。あたしの口から、ごうごうと音をたてて、発情の炎が噴き出している。
「やだ・・・この子、発情してるし・・・ちょっと、警備のじじいに連絡してよ」
あたしのスーパー頭脳が、瞬時に判断した。危険だ。警備に通報させてはいけない。ああ、あたしの頭の中に「必殺!仕事人」のテーマが響き渡る。
あたしは、手にした三味線の糸をピンと張ると、おもむろに口の端にくわえた。
すっと、OL族が身体を引いた。
乾いた蛍光燈の通路に、緊張感が充満する。あたしは、顔を動かさずに、周囲をチェックする。OL族は、3人。
「あんた・・・タダもんじゃないね」
身の丈180センチにせまるOL族のひとりが、金属製の三角定規を右手に構えて、つぶやいた。
「ふっ」
あたしは、答える代わりに、三味線の糸をするどい呼気とともになげた。獲物をねらうヘビのように、するすると糸が宙を走る。
「ちっ!」
OL族は、ひらりと身をかわして、糸を左手でつかんだ。
「あたしは、山口物産産業3部三角定規のミサ。あんたの名前を聞いておこう。」
カッコいい!あたしは、うっとりしてしまった。あたしだって「三角定規のミサ」とかいってみたいなあ。
「・・・・・」
あたしは、とっさにカッコいい名前が浮かばなかったので、言葉につまってしまった。
「・・・シュレッダーのナギサ」
あたしの背中で声がする。
「セクハラのお竜」
いつの間にか通路の天井にOL族がひとりはりついている。
あたしは、じわじわと壁際に、あとずさりした。こいつら、思ったよりずっと手強そうだ。あたしの背中に冷たい汗が流れる。
「あんたの名前は?」
三角定規のミサが、ゆっくりといった。
「・・・三味線屋の勇次」
あたしは、思わずいってしまった。
ぱっと、三味線の糸が手放された。あたしは、ふらっと後ろにのけぞったが、あやういところで踏みとどまった。後ろには、シュレッダーのナギサがいるのだ。気をつけなければ、振り向かないでも、なにかが、ごうごう音をたててうなっているのがわかるのだ。
きっと、特大のシュレッダーが、あるに違いない。ナギサは、服でも髪の毛でも、シュレッダーに、つっこもうと身構えているに違いない。一度、シュレッダーに、つかまったら、そのまんま吸い込まれて、バラバラになってしまうのだ。
あたしのチャクラが、ブンブン回転している。
なぜか、頭の中では、ハレルヤの合唱がはじまっていた。これは、チャクラがホーリーな気分なのに違いない。
ハレルヤー、ハレルヤー、ハレルヤー、ハレルヤーーーーーー
ひゅんひゅんと鋭いうなりをあげて、大きな三角定規が、宙をまっている。
まるで、ヌンチャクみたいだ・・・あたしは、うっとり見とれてしまった。
耳元を、つめたい空気が切ったような気がした。気がつくと、ぬるぬるしたものが、あたしの頬を流れ落ちている。これは、汗じゃない。
「三角定規だと思って甘くみない方がいいよ。人間だった、三枚におろせるんだからね。」
よくわかんないけど、すごいらしい。
あたしは、三味線を投げ捨てると、今度は、組み紐をとりだした。
「馬鹿だな。そいつは、あっさり殺されただろう」
そうだった・・・京本演じる組み紐の竜は、劇場版であっさり殺されてしまったのだ。ああ、八丁堀の仕込み刀が欲しいよう。
「いやー!!!課長なにするんですかー」
突然、○チガイみたいなカナキリ声があがった。一瞬、あたしは、声の方を振り向いてしまった。
「かかったね。セクハラのお竜の罠だよ」
あたしの注意がよそに向いた隙に、三角定規が、あたしの喉元に、ぴったりとあてられていた。
「あんた・・・どこのもんだい?本社の人間じゃないねえ。厚木の資材課かな? それとも、綾瀬の流通センターかい? どっちにしても、本社にのりこんできたからには、それなりの覚悟があってのことなんだろう? じっくり、話しを聞こうじゃないか?」
あたしは、黙って、うなずいた。
正体不明の3人組みのOL忍者達は、会社の地下にある地下牢にあたしを連れていった。
水責めとかされるのかも知れない・・・こわいよう。
「ふん、さっきの威勢はどうしたんだい」
三角定規のミサが、ドスのきいた声であたしをびびらせる。
コンクリートうちっぱなしの床にあたしは、突き飛ばされた。ああああ、これで口とお尻にホースをくわえさせられて、ダバダバ水をのまされてしまうんだ・・・そう思ったら、急に悲しくなってきた。
「水責めにするんですね」
あたしは蒼白な顔で、ミザを見上げた。
「水責め?なにいってんだ?やっぱ、この子ヘンだよ」
「ミサさん、見たところ学生くらいだし、なんでしょうね? 単に金目当てかしら?」
セクハラのお竜が、天井にへばりついたまま、しゃべっている。つかれないのだろうか?
「ぎぼーん、あたしは、OLになりたいんですっ」
あたしは、思わず叫んでいた。そうだ!あたしは丸の内のOLになりにここにきたんじゃないか!OL影の忍者軍団と闘うためじゃないんだ。人は人生の途中で、いつも大事なことを忘れてしまうものなのだ。
「はあ?」
みんなヘンな顔をしている。
「ああっ!あたしをバカにしているのね。公正取引委員会と人権擁護委員会に訴えてやるわよ。」
あたしは、法律用語をふりかざして、忍者軍団に立ち向かおうと思った。きっと、忍者軍団は、頭は悪いに違いない。
「あんたね。OLはね、入社試験を受けないと入れないのよ」
ミサが、じろじろとあたしを見ながらいった。あたしは、その時、珍しい動物のような顔をしていたに違いない。
「コーン」
思わずキタキツネの真似をしてみた。北の国からを見たことがあるひとなら、これで、心がなごむに違いない。ゴローさんの物真似もしようと思ったが、口からよだれがたれただけで、うまく声がでなかった。
「ヤバイよ、この子、口からよだれたらしてるし・・・保健所呼んだ方がいいんじゃないの?」
シュレッダーのナギサが、ミサの肩をつつきながら、いった。
「バカバカ!先輩なんかにあたしの気持ちわかんないのよ!」
あたしは、とっさに思いついた呪いのセリフを叫んだ。
OL忍者軍団は、じりじりと後ずさりしている。
「この前のM商事の特攻隊みたいに、自爆されたらめんどうだしな」
ミサは、あきらめの境地の声を出した。
パチンとミサが指をならした。余談なんだけど、あたしは指をならすのがうまくできない。練習したこともあるんだけど、指が痛くなるばかりで、全然、飯尾とがでない。そのうち、自分の指が痛くなりすぎたので、近所のヤマザキの指でやってみたら、指があさっての方向に折れてしまったという悲しい過去がある。
パチンという音とともに、あたしの背後の壁が、ゴオオオオオオオオオーーーンと横にスライドした。スゲー。まるで、スパイ映画が三菱商事の本社みたいだ。
まぶしい光があたりに満ち満ちた。
「とっと帰んな」
ミサがはきだすようにつぶやいた。晴れてあたしは自由の身なのだ。
でも、あたしは、まぶしさに目がつぶれてしまい、なにもかもが、真っ白に見えた。ああ、明日のジョーがリングで最期に見た光景ってこんな感じなんだろうか・・・と思った。
「まっしろに、燃えつきたぜ」
とつぶやきながら、肩を落として、まばゆい光の向こうに、歩き出すのであった。
途中、日本を食い物にする闇の主婦軍団を発見したので、飛び蹴りで蹴散らした。グッチのバッグに入ったサイフには、6万円もあった。これで、女教師のコスプレ服を買って、明日事務所に着て行こう。ものすごいカッコいいに違いない。明日も日本晴れだ。
いつもあたしの顔を見ると、セックスをねだるヨシ蔵が、うるんだ瞳をした。
なにをいってもセックスに結び付ける人はどこにでもいるのだ。
「どこに就職するの?」
インディアンは、まだ、へらへら笑っている。
「コピーがたくさんあるところ」
あたしは、自分のビジョンを端的に言葉にした。みんなが、いっせいに爆笑した。あたしは、才能あるのかも知れない。
さらに気分のよくなったあたしは、事務所を飛び出すと、コピーがたくさんある会社を探しはじめた。
やっぱり、丸の内に違いないと目星をつけたあたしは、丸の内線にとびのった。
ところで、地下鉄は、淫靡な空間なのだなと思う。こんな不健康でうすぐらい空間に、いろんな人が、だらだら汗かきながら、のっているのは、淫靡だと思う。地下鉄は、なんだか、混んでいた。あたしの後ろにたったカッパみたいな髪型のおじさんが、うんこ臭い息をあたしの脳天に吐きかけながら、お尻をさわってきた。
あたしは瞬間的に、こいつは、敵の宇宙人だと直感した。口がうんこ臭いのが、なによりの証拠だ。下手にさからうと、危険なので、宇宙人の弱点をせめることにした。
うんこ臭い星人は、君が代に弱いのだ。あたしは、甲高い声で、君が代を歌った。うんこ臭い星人は、びくっとして、あたしから、遠ざかっていった。
効果てきめん。ありがとうニッポン。
あたしは、気分がよくなったので、お礼の意味も含めて、隣にいた人に大外がりをかけた。いっぽん!
その時、あたしは、丸の内線に「丸の内」という駅がないことに気がついた。
マズイ、マズイぞ。
あわてて、次の駅で降りた。東京駅だった。
ケムール人の鳴き真似のうまそうな駅員がいたのでつかまえた。
「丸の内のOLになるには、どこにゆけばいいですか?」
あたしは、ケムール人は、きょとんとした顔をした。で、その後、なんだか、変な顔をすると
「とりあえず、事務室にきなさい」
とかいって、あたしの腕をつかんできた。
あたしは、はっとした。
狂のあたしの服装は、ピンキーなマイクロミニに、真っ白のウルトラブラウス。決まりは、ミラクルキュートなおさげときている。つかまったら、犯されると思った。
そういえば、友達もナターシャも地下鉄でつかまって、いたずらされたっていっていた。
「あんた、ナターシャを暴行したでしょ」
あたしは、するどい切れ味で推理をしてみせた。
「ナターシャ????」
しらばっくれているケムール人の一瞬のスキをついて、腕をつかんだ相手の手首を小手返しで決めて、延髄切りをくらわせた。
我ながら最高のコンビネーションだ。ケムール人は、声もたてずに、床に崩れ落ちた。
パチパチパチと、いっせいに周りから拍手が起きた。あたしの超絶美技をみんなが見ていたのだ。
「ダーーーーーーッッッッッ」
あたしは、右腕を高くつきあげると、勝利の雄たけびをあげた。
「次はオレの番だ」
後ろで声がした。
中ボスのギガヘッダがあらわれた。自分の頭をはずすと「チェストー」と叫びながら、投げつけてきた。
誤解だわ。あたしは、格闘をしにきたわけじゃないのに・・・と思ったけど、もはやおそかったみたいで、周りのみんなは、あたしの美技をワクワク期待している。
あたしは、ミニスカートからロリロリの白いパンティが効果的に、見えそうな角度を計算しながら、高くジャンプした。地下鉄の天井のあたりで、くるりと回転して、天井を蹴る。
「くらえ!スターダスト・ハリケーン」
一分間で1万回パンチを繰り出すと、その瞬間、まわりが真空になり、相手の身体をその風圧で切り刻むという幻のパンチだ。
観衆がどよめく。
実力者だけが味わえる最高の瞬間。
ああ、でも、早くOLになって、コピーとりをしなくてはいけない。
あたしは、次の挑戦者があらわれるよりも早く、どぶネズミの格好をした会社員を発見した。
どぶネズミのところまで、光速ダッシュすると、ネズミは、驚いてキーキーわめきながら、逃げ出そうとした。
「しっかりせんかい」
あたしは、少しバンカラになって大正時代の敗れた学生帽をかぶりたくなった。がっちり、ネズミの襟首をつかむと、のぶとい声で丸の内にゆく方法を聞こうとした。でも、やっぱり口からでたのは、いつものあたしの「うるるんロリータ声」だった。
「オーーーーーーッス!」
あたしは、バンカラな声を出す訓練をしなきゃいけないと思って、大声で、叫んでみた。ネズミのからだがビクビクっとした。快感なのかしら。
ネズミがいうには、丸の内は、地下鉄のホームの最果ての出口からしかいけないという。
それさえわかれば、ネズミに用はない。あたしはネズミをストリートファイト目当ての愚民どもに投げつけて、そのスキに、最果てを目指した。
地下鉄の最果てには、巨人が待っていた。しまった。罠だ。
「げへへへへ、待っていたぜ」
巨人は、地下鉄職員のコスプレでせまってくる。
ああ、でも、あたしはいかなければ、いけないんだわ。あたしは、巨人あ強そうだったので、とりあえずうるうる目で、巨人をみあげて、許してもらおうとした。
「うへへへへ、そんな顔をしたってダメだぜ。おまえは、一生地下鉄からでられなくなるんだ。ずっと、自販機の中で”ありがとうございます”っていうんだ。」
やっぱり、しゃべる自販機には、人が入っていたんだ。あたしは、目からウロコが落ちた。
巨人の足元に、ひざまずいてズボンのジッパーをおろした。
「へへへへ、少しはものわかりいいみたいだな」
巨人はにたにたした。
おしゃぶりして、許してもらおうと、一瞬思ったけど、巨人のチンチンが、白くて皮かむりだったので、気が変わった。そのまま、チンチン出したまま、ジッパーをあげてやるー。
「うおおおお、なんじゃあ、こりゃー」
巨人は、身体をよじらせて、ひっくり返った。やった、逆転ホームランだ。
「イテテテテテ」
巨人はチンチンを必死に、ジッパーからはずそうとして、ころげまわっている。チャーーーーンス。あたしは、巨人の身体を踏みつけて、最果ての階段に向かった。
最果ての階段は、なんだか、かわりばえしない普通の階段。
ああ、なんかトイレ臭いぜ。
あたしは、丸の内に来た喜びを噛み締めるように、一歩一歩、階段を上っていった。
階段の中ほどで、ダンボールにくるまっていた預言者のジジイが、あたしの方をじっと見てつぶやいた。
「デンジャラス ビー・ケアフル」
英語を聞いたとたんに、あたしの中の外人エンジンが、猛烈なイキオイで、チャクラをまわしはじめた。ぐるんぐるんと、みぞおちのあたりで、チャクラが回っているのがわかる。ちなみに、あたしのチャクラは、サイクロンというのだ。回れ!サイクロン。
身体中に、ものすごいアドレナリンが分泌されて、どっと汗とよだれがでてきてしまった。しかたがないので、あたしは、よだれをふきながら、階段を上った。せっかくの丸の内デビューなのに、カッコわるいなあ。
丸の内には、デンジャラスなムードがビンビンあたりを震わせていた。あたしは、近くにいた冥王星人らしいOLをつかまえた。
「ナポレオンは、どこに逃げた」
あああああああああ!しまった。こんなこというつもりじゃないのに!
マジカル・パワーがあたしの唇を支配しようとしている。
「なんですか、あなた」
ひょっとこみたいな口をした冥王星人が、あたしをつきとばした。つきとばし方に愛が感じられなかったので、あたしは、ちょっとむっとした。
「キサマ、シャーマンだな。あたしに呪いをかけたろう!」
あああああ!また、変なことを口走ってしまった。でも、本当にコイツが、怪人シャーマンかも知れない。
「よしてください」
冥王星人あらため”ひょっとこOL”が、わめいた。 いけない! いけない! 人がパニくるのを見ると、あたしも共鳴してしまうのだ。うひー、危険。
「きゃー!タスケテー!」
あたしは、大声で叫んでいた。
脳髄に、「大変」という言葉が、あふれでてわけのわからない言葉が次々と飛び出してしまうのだ。
「ひ、ひとごろしー!」
ああああ!とまらないよう。
「大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大
変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!
大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大
変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!
大変!大変!大変!大変!大変!大変!大変!」
あたしは、ひょっとこを放り出すと一目散に走り出した。
100メートルほど、走ると少し落ち着いてきた。
額に汗がにじむ。だって女の子なんだもん。
ちょうど自動販売機があったので、一息つくために、なんか呑むことにした。やった!あたしの好きな「ドクター・ペッパー」がある。久しぶりだなー。
ガチャん!
でてきたドクター・ペッパーをグビリと呑んだあたしは、その水っぽさにびっくりした。
「なんじゃあ!こりゃあ」
濃厚でマニアックな味わいは失われ、水っぽいへんな飲み物にかわっている。
「太陽のバカヤロー!」
あたしの両目からどっと涙が、ほとぼしりでた。
こんなに悲しい思いをしたのは、久しぶりだわ。
手にもったドクター・ペッパーを通りすがりの宇宙人に、投げつけた。あたし以外のヤツも不幸にならなければ、不公平じゃないか、ええ?ご同輩。
「なにするんだ」
はっと、声のする方を見ると、エセ・ドクター・ペッパーの匂いをぷんぷんさせたスーツ姿の宇宙人があたしを怖い目で見ている。
−犯されるかもしれない−
女の直感が、ビリビリと子宮を刺激した。
ドクターペッパーの匂いを漂わせた宇宙人は、憎悪と肉欲のみなぎる視線をあたしに投げつけてきた。これは、挑戦だ。
あたしは「へぁっ!」裂帛の気合とともに、両手を目の前にかざして、視線を反射した。バギョーンという音とともに、視線がはじかれる。
「うぎゃ−−」
という声が後ろで聞こえた。はじかれた視線にあたったOLの悲鳴に違いない。
「正義には犠牲がつきものだわ」
あたしは、ひとしずくの涙を流した。
この悲しみが、戦いへとあたしをかりたてるのだ。
あたしは、軽やかに、ジャンプすると宇宙人の脳天めがけて、飛び蹴りをくらわせた。スーツ姿の宇宙人は、もんどりうって、路上に倒れ込んだ。
倒れたところに、トラックがきて、そのまま3つくらいに分身してしまった。
でも、あたしのキックが効いていたのか、分身した後、全然動かなくなった。
周囲にどよーんとした空気が、漂ってきた。いつもあたしは、こういう空気を感じる。それは、ギャグをはずした時だ、なんかギャグをはずしたんだろうか?それとも、やはり丸の内では、ちょっとギャグが違うんだろうか?
あたしのかわいいブレーンに、ギャグ問題を考える過剰な負荷が増大している。そうよ。人前でセックスするより、ギャグをはずす方が恥ずかしい乙女心をわかって欲しい。
「海のバカヤロー!」
あたしは、とりあえずのギャグをかますと、小走りに、近くの丸の内っぽい大きなビルに飛び込んだ。
忘れてはいけない。あたしの目的は、丸の内のOLになることなのだ。
制服の似合うOLになれたら、Hな課長にお尻をさわられても我慢しよう。人生は忍耐と挑戦の連続なんだ。
さあ、挑戦の時がきた。受付で、おすまししているOLにOLになる方法を聞かなくてはならないのだ。生きたカエルを丸呑みするような苦しい修行がまっていてもあたしは決して、くじけはしない。
「はい、ご用件を承ります」
人工的な声と笑顔があたしを迎える。
あたしの子宮が、ぎゅうぅぅぅっと縮み上がった。こいつは、敵だ。あたしをライバルだと思っている。
あたしの中の女の魂が、戦闘開始のゴングをならした。
作り笑顔の受付マシーンは、にこにこ芸のないほほえみを投げてくる。あたしは、その笑顔の裏側に、小姑にも似た危険な挑戦を感じ取った。
猫足立ちで、そろりと、受付マシーンに近づく。
ちょっとだけ、髪をそめて柔らかい感じに仕上げました、といいたげなロングヘアに、がっしりとツメをたててやる。
「キャー!」
甲高いけど、ちゃんと鼻にかかった甘える声が、脳天から発射される。
あたしの目玉は、歴戦の経験で、しばやく敵の悲鳴を判別する。
−距離2000!赤外線追尾型。しかも、しかも、敵の位置を味方パイロットに知らせる新機能まで搭載しているらしい−
悲鳴はあたしの頬をかすめて、会社の1階にこだました。
「あぶないじゃないか!」
あたしは、つかんだ髪を乱暴にひっぱって、痛い目をあわせてやった。
「ひどい、なにするんですかー」
それでも間延びした甘い声を出すのは、周りに男の社員が集まってきた空に違いない。受付マシ−ンの頭の中には、男性社員センサーによる自動音声補正装置が内臓されているのだ。
あたしの頭にするどい電波が、入ってきた。
−危険!危険!危険!−
思わず髪を手放して振り向くと、スーツをまとった男性社員が、ぞくぞくとあたしめがけて集結しているところだった。
−デンジャラス−
あたしは、思わずつぶやいた。
男性社員に内臓された受付マシーンセンサーが反応して、ちんちんがビンビンにたっている。中には、メガネ女センサーまで搭載したために、異常なほどの盛り上がりをみせるやつまでいる。
−ちんちんミサイルを一斉射撃されたら、やられてしまう−
あたしの脳裏に、ミサイルに、ぼこぼこにされた自分の姿が浮かんだ。あたしは、恐怖に負けそうな自分のこ心にカツをいれた。
−負けるな!これまでの血のにじむような特訓を忘れたのか!−
見知らぬ師匠みたいな人が、突然、あたしのハートに電波を送り込んできた。
必殺技をくれるみたいだ。やった、これで、今日もホームランだ。
先頭を切ってあたしに向かってくる男性社員は、白髪まじりのじじい野郎だ。
ちょっとだけ、偉そうな気がする。
「丸の内のOLになりたいんですっ」
あたしは、大きな声で、あふれる熱情を、じじいにぶつけた。
じじいは、目を見開いて、立ち止まった。
−チャーンス!−
ひらりとあたしの身体が宙にまった。ひゅるんとしなやかで長い脚線美を見せて、無尽蔵の破壊力がじじいの顔面に炸裂した。ぐにゃっとする感触が足首に伝わってくる。人を壊す時のこの感触。これが快感なのだ。
しまった!すきだらけの相手を見て思わず攻撃してしまった。
本当は、偉そうだからOLにしてもらうように頼もうと思っていたのに、ヤバイことをした。
「山城さん!」
男性社員が、わらわらとじじいに寄ってきた。ああ、こんなことをしてしまったら、悪いうわさが広まって、社内恋愛とかできなくなってしまう。
「違うんです」
あたしも脳天から甘い声を出して、男性社員のミサイルをコントロールしようとしてみた。
でも、あたしの脳天からでたのは、びちゃびちゃの声で、集まってきた男性社員は、ニューハーフを見るような目であたしを見やがった。じわじわと戦闘体制を整えてせまってくるちんちんミサイルの群れ!
「お願い!わかってちょうだい」
あたしは、思わずアニメのヒロインになりきった。
身体の奥からあたらしい力がわいてくる。
「泣かないでー ラララー おじいさんは死んだわけじゃないのよ
戦いはおろこなことだわー わー わー」
あたしの唇から男達をなだめるメロディーがこぼれでた。
「耳が腐るぜ!」
突然、ロンゲの男性社員があたしを思い切りどついてきた。ひどい、ひどい、ひどい。あたしの歌をけなんて、ひどいやつだ。
あたしは、どつかれて、ころげた床の上から、恨めし気な視線で、そいつをにらんでやった。
「とっとと出て行けよ。え?黄色い救急車よんで欲しいのかよ?」
そいつは、へらへらあたしを見下ろした。濃紺のスーツをきめて、思い上がっているこの若者に、あたしは正義の鉄槌をくだしてやりたくなった。
「きさまの正義は、間違っている」
あたしは、叫びながら、立ち上がった。
「なにいってんだ?」
ロンゲ野郎は、あたしを露骨に見下して唇を歪めた。まるで、つまみ枝豆みたいな見事な歪み方にあたしは、ちょっとくらっとした。歪んだ顔って、いやらしい感じするの。
「早くでていけよ」
ロンゲが怒鳴ると、うしろにわらわらいるスーツ軍団が「そうだ、そうだ」と合唱した。みんなして、あたしをのけ者にする。いつものことだが、いやーな感じがした。
こういう時、人はいじめを感じるに違いないのだ。教育問題まで、思いの至ったあたしは、教育に関する考察をメモしておかなければと思ったが、戦闘の最中なのでやめた。
あたしのスーパー頭脳が、高速で回転する。まわるまわるまわる。OLになるには、OLに紛れ込めばよいのだ。
あたしは、とっさに、周りを見回した。髪の毛を直している受付マシーンの背中の方角にエレベータらしきものが見える。あれだ。あれにのって、OLアイランドに、突進だ。
「おい、そっちは出口じゃねーよ」
ロンゲマンが、じわりをあたしにちかよった。ああ、口臭が匂うくらいに、近い。あたしは、ロンゲマンの意表をついて、エレベータに乗り込む作戦を考えた。名づけて「フォーメーションX」。
「なにしてんだ?」
ロンゲマンが、さらに近づく。
−いまだ!−
「おにいさん!」
あたしは、感極まった声をあげるとロンゲマンに抱き着いた。
「やっと会えたね。おかあさんも会いたがっているよ」
あたしが、涙目でそういうと、ロンゲマンは、あわててあたしから離れた。あたしのことを、電波女と思ったに違いない。
ロンゲマンの一瞬のスキをついて、あたしは、受付マシーンの脳天に、足をかけると、思い切りエレベータめがけてジャンプした。
エレベータを降りた・・・そこは、甘くけだるい夢のOLアイランド。
ガウンガウンうなるエレベータを降りたあたしの目には、つっけんどんな葉色の壁までも、OLアイランドの美しい緑に見える。
あたしの前をOLアイランドの住民・・・紺の制服に豊満な身体をつつんだOL達が何人も通り過ぎて行く。
「ねえ、その制服、くださいっっっ」
あたしは思わず叫んでいた。
ぎょっとした目つきで、OL族が振り向いた。
「なによ、この子」
ああ、言葉使い悪いぜ。男の前とじゃ全然違うじゃないか・・・あたしは、自分の頭のスーパー頭脳に「OLは表裏がある」と入力した。
「OLになりたいんですっっっ」
あたしは、OL族への憧れや思いのたけを、ぶちまけた。あたしの脊髄に内蔵された発情回路に電流が走る。あたしの口から、ごうごうと音をたてて、発情の炎が噴き出している。
「やだ・・・この子、発情してるし・・・ちょっと、警備のじじいに連絡してよ」
あたしのスーパー頭脳が、瞬時に判断した。危険だ。警備に通報させてはいけない。ああ、あたしの頭の中に「必殺!仕事人」のテーマが響き渡る。
あたしは、手にした三味線の糸をピンと張ると、おもむろに口の端にくわえた。
すっと、OL族が身体を引いた。
乾いた蛍光燈の通路に、緊張感が充満する。あたしは、顔を動かさずに、周囲をチェックする。OL族は、3人。
「あんた・・・タダもんじゃないね」
身の丈180センチにせまるOL族のひとりが、金属製の三角定規を右手に構えて、つぶやいた。
「ふっ」
あたしは、答える代わりに、三味線の糸をするどい呼気とともになげた。獲物をねらうヘビのように、するすると糸が宙を走る。
「ちっ!」
OL族は、ひらりと身をかわして、糸を左手でつかんだ。
「あたしは、山口物産産業3部三角定規のミサ。あんたの名前を聞いておこう。」
カッコいい!あたしは、うっとりしてしまった。あたしだって「三角定規のミサ」とかいってみたいなあ。
「・・・・・」
あたしは、とっさにカッコいい名前が浮かばなかったので、言葉につまってしまった。
「・・・シュレッダーのナギサ」
あたしの背中で声がする。
「セクハラのお竜」
いつの間にか通路の天井にOL族がひとりはりついている。
あたしは、じわじわと壁際に、あとずさりした。こいつら、思ったよりずっと手強そうだ。あたしの背中に冷たい汗が流れる。
「あんたの名前は?」
三角定規のミサが、ゆっくりといった。
「・・・三味線屋の勇次」
あたしは、思わずいってしまった。
ぱっと、三味線の糸が手放された。あたしは、ふらっと後ろにのけぞったが、あやういところで踏みとどまった。後ろには、シュレッダーのナギサがいるのだ。気をつけなければ、振り向かないでも、なにかが、ごうごう音をたててうなっているのがわかるのだ。
きっと、特大のシュレッダーが、あるに違いない。ナギサは、服でも髪の毛でも、シュレッダーに、つっこもうと身構えているに違いない。一度、シュレッダーに、つかまったら、そのまんま吸い込まれて、バラバラになってしまうのだ。
あたしのチャクラが、ブンブン回転している。
なぜか、頭の中では、ハレルヤの合唱がはじまっていた。これは、チャクラがホーリーな気分なのに違いない。
ハレルヤー、ハレルヤー、ハレルヤー、ハレルヤーーーーーー
ひゅんひゅんと鋭いうなりをあげて、大きな三角定規が、宙をまっている。
まるで、ヌンチャクみたいだ・・・あたしは、うっとり見とれてしまった。
耳元を、つめたい空気が切ったような気がした。気がつくと、ぬるぬるしたものが、あたしの頬を流れ落ちている。これは、汗じゃない。
「三角定規だと思って甘くみない方がいいよ。人間だった、三枚におろせるんだからね。」
よくわかんないけど、すごいらしい。
あたしは、三味線を投げ捨てると、今度は、組み紐をとりだした。
「馬鹿だな。そいつは、あっさり殺されただろう」
そうだった・・・京本演じる組み紐の竜は、劇場版であっさり殺されてしまったのだ。ああ、八丁堀の仕込み刀が欲しいよう。
「いやー!!!課長なにするんですかー」
突然、○チガイみたいなカナキリ声があがった。一瞬、あたしは、声の方を振り向いてしまった。
「かかったね。セクハラのお竜の罠だよ」
あたしの注意がよそに向いた隙に、三角定規が、あたしの喉元に、ぴったりとあてられていた。
「あんた・・・どこのもんだい?本社の人間じゃないねえ。厚木の資材課かな? それとも、綾瀬の流通センターかい? どっちにしても、本社にのりこんできたからには、それなりの覚悟があってのことなんだろう? じっくり、話しを聞こうじゃないか?」
あたしは、黙って、うなずいた。
正体不明の3人組みのOL忍者達は、会社の地下にある地下牢にあたしを連れていった。
水責めとかされるのかも知れない・・・こわいよう。
「ふん、さっきの威勢はどうしたんだい」
三角定規のミサが、ドスのきいた声であたしをびびらせる。
コンクリートうちっぱなしの床にあたしは、突き飛ばされた。ああああ、これで口とお尻にホースをくわえさせられて、ダバダバ水をのまされてしまうんだ・・・そう思ったら、急に悲しくなってきた。
「水責めにするんですね」
あたしは蒼白な顔で、ミザを見上げた。
「水責め?なにいってんだ?やっぱ、この子ヘンだよ」
「ミサさん、見たところ学生くらいだし、なんでしょうね? 単に金目当てかしら?」
セクハラのお竜が、天井にへばりついたまま、しゃべっている。つかれないのだろうか?
「ぎぼーん、あたしは、OLになりたいんですっ」
あたしは、思わず叫んでいた。そうだ!あたしは丸の内のOLになりにここにきたんじゃないか!OL影の忍者軍団と闘うためじゃないんだ。人は人生の途中で、いつも大事なことを忘れてしまうものなのだ。
「はあ?」
みんなヘンな顔をしている。
「ああっ!あたしをバカにしているのね。公正取引委員会と人権擁護委員会に訴えてやるわよ。」
あたしは、法律用語をふりかざして、忍者軍団に立ち向かおうと思った。きっと、忍者軍団は、頭は悪いに違いない。
「あんたね。OLはね、入社試験を受けないと入れないのよ」
ミサが、じろじろとあたしを見ながらいった。あたしは、その時、珍しい動物のような顔をしていたに違いない。
「コーン」
思わずキタキツネの真似をしてみた。北の国からを見たことがあるひとなら、これで、心がなごむに違いない。ゴローさんの物真似もしようと思ったが、口からよだれがたれただけで、うまく声がでなかった。
「ヤバイよ、この子、口からよだれたらしてるし・・・保健所呼んだ方がいいんじゃないの?」
シュレッダーのナギサが、ミサの肩をつつきながら、いった。
「バカバカ!先輩なんかにあたしの気持ちわかんないのよ!」
あたしは、とっさに思いついた呪いのセリフを叫んだ。
OL忍者軍団は、じりじりと後ずさりしている。
「この前のM商事の特攻隊みたいに、自爆されたらめんどうだしな」
ミサは、あきらめの境地の声を出した。
パチンとミサが指をならした。余談なんだけど、あたしは指をならすのがうまくできない。練習したこともあるんだけど、指が痛くなるばかりで、全然、飯尾とがでない。そのうち、自分の指が痛くなりすぎたので、近所のヤマザキの指でやってみたら、指があさっての方向に折れてしまったという悲しい過去がある。
パチンという音とともに、あたしの背後の壁が、ゴオオオオオオオオオーーーンと横にスライドした。スゲー。まるで、スパイ映画が三菱商事の本社みたいだ。
まぶしい光があたりに満ち満ちた。
「とっと帰んな」
ミサがはきだすようにつぶやいた。晴れてあたしは自由の身なのだ。
でも、あたしは、まぶしさに目がつぶれてしまい、なにもかもが、真っ白に見えた。ああ、明日のジョーがリングで最期に見た光景ってこんな感じなんだろうか・・・と思った。
「まっしろに、燃えつきたぜ」
とつぶやきながら、肩を落として、まばゆい光の向こうに、歩き出すのであった。
途中、日本を食い物にする闇の主婦軍団を発見したので、飛び蹴りで蹴散らした。グッチのバッグに入ったサイフには、6万円もあった。これで、女教師のコスプレ服を買って、明日事務所に着て行こう。ものすごいカッコいいに違いない。明日も日本晴れだ。
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